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つまり二百円持っていれば、この会社の経営権を持つことができたわけです。
ただし六十六億分の一の経営権にすぎませんが。
しかし何億分の一にせよ、大会社の経営権を持つということは気分がいいものですし、もうけの配分ももらえるわけですから、一般の人(S製鉄となんの関係もない人)でも、この株式を買おうという人が出てきます。
事実、S製鉄の株式を持っている人(株主=かぶぬし)は三十万人を超えています。
さてこの「経営権」というものをもっと具体的に説明すれば、会社の収益(もうけ)の分配の仕方を決める、取締役(社長を含む全重役)を選ぶ、会社の合併、解散など重大な事柄の賛成、反対を決める、解散のときには残った財産(損失が大きければ残りませんが)の分配の仕方を決める──などがおもな権利です。
会社は普通の場合、一年に一回(二回の場合も少なくありません)の決算をします。
決算とは一定期間(たとえば四月一日から三月三十一日までの一年間)の間に、その会社が何億円の品物を売り、その利益が何千万円あったかを調べるために、帳簿を整理することです。
その結果がわかれば、取締役たちは株主を呼び集めて報告しなければなりません。
その席で、そのもうけをどのように分配するかの案が取締役の人たちから出され、株主はそれに同意するか反対するかの投票をします。
もちろん損失が出れば、もうけの分配どころか、その損失をどうやって埋めるか、または今後何年ぐらいで取り戻すかなどの方針を取締役に報告させ、それへの賛否の投票をするわけです。
利益の分配の仕方は、会社によってまちまちですから一言では言えませんが、大体は利益全体の半分くらいが株主に分配されると考えていいでしょう。
だから利益の多い会社の株式を持つことは株主にとって非常に有利になり、これらの株式はだれでもがほしがり、株式市場での値段が高くなります。
取締役の選任については、一般の株主はそれほど興味を示しません。
日本の会社の取締役は、平社員から成り上がった人たちが多いので、一般の株主はほとんどその人柄や才能を知りません。
したがって賛否の意見の出しようもないわけです。
それに一般の株主(ほとんどが少額の出資者です)が「あの人を取締役にしよう」といくら努力してみても、大口出資者(大株主)が反対の投票をすれば、数のうえでかないません。
株主の集会(株主総会)では、持っている株式の数が力を持つのです。
国連の議決のような一国一票とは違います。
この点は取締役の選任だけの問題ではなく、前述の利益分配(配当金)の場合も、あとで述べる会社の合併、解散などの決定の場合も同じです。
小口出資者(一般株主、零細株主)はいざというときには必ず数の力に負けますから、「株式を持つことによって経営権の一部が持てる」と言っても、実際の小口出資者の楽しみは配当金(利益分配)が中心になります。
そして会社の経営は“成り上がり重役”に任せておこうということになりがちです。
第二次大戦前には会社の経営は大口出資者(資本家、大株主)がやっているのが普通でしたし、現在でもヨーロッパの会社にはそうした傾向がまだかなり残っているのですが、最近の日本では珍しいケースとなってきました。
このような状態を「資本の遥有(ようゆう)」と呼ぶことがありますが、平たく言えば最近の資本家(出資の多少を問わず)は「金は出すが口は出さぬ」というわけです。
このことがいいことか悪いことかはとにかくとして、今後もこの傾向は続くでしょう。
一般株主にしてみれば、配当をもらえれば満足で、会社経営に関する会議など興味も薄いからです。
また小株主では議決権が小さいため、総会の決議を左右できません。
株主が十万人もいる株式会社はごくわずかですが、一万人以上いる株式会社はそう少なくありません。
なぜそれほど多いのか。
単に経営権が持てるとか、もうけを分配されるとかだけの理由ではありません。
たとえば、もしその会社が倒産したとき、その損失の分を全部株主が弁償しなければならないとしたら大変です。
うかつに株主になると、全財産を投げ出しても間に合わないでしょう。
また、いったん株式を買ってしまうと、永久にその株式を売ることができないとしたら、買うこと自体、非常に決心をつけかねます。
ところが株式にはそうした心配はありません。
前に述べた合資会社の有限責任社員と同じように、株主は自分の支払った金額を損するだけですむのです。
それ以上の金を会社の偵権者から要求されることはありません。
つまり株主は有限責任なのです。
また、株式は原則的に譲渡が自由です。
合名会社や合資会社に出資した場合は、その出資分をあとで回収しようとしても、きびしい制約があって、きょうあすのうちに売却することがむずかしくなります。
これに対して株主の場合はだれに気兼ねすることなく売れます。
ここにも大きな魅力があります。
もちろんこの原則にも例外はあります。
たとえば日刊新聞を発行している会社の株式は、「言論の自由」を守る意味から、やたらの人に売られては困るため売買を制限されています。
また株式を上場(じょうじょう)していない会社の株式も、その会社の定款(ていかん=会社の憲法)にはっきりと書いてあれば売買に制限が加えられます。
ここで上場という言葉を簡単に説明しておきますと、証券取引所というところで売買されるように登録されることです。
証券取引所で売買されるということは、その会社の株式がどこのだれかわからない人間にも持たれることを意味します。
つまり上場ということは「われわれの会社の株式はだれが買っても売ってもいい」ということを天下に宣言しているわけです。
したがって上場された株式会社の株式は、その特色を最も明白に示したものと言えましょう。
むしろ上場されていない株式会社(一般に「未公開会社」とか「非公開会社」とか呼んでいます)は、なんのために株式会社の形を採用したのかわからないくらいです。
なぜなら、株式会社が持っている大きな特徴(広く一般の人から金を集められる特徴)を放棄したと同じことですから。
世界で最初の株式会社はオランダの東インド会社だと言われています。
もともと会社という形は、年を追って変化し、進歩してきていますから、どれが最初の合名会社で、どれが株式会社第一号かと決めつけるのはむずかしいのですが、一六〇二年に創立されたこの東インド会社は、ほぼ株式会社に近い形だと認められています。
合名会社、合資会社の起源を尋ねるとなると、七百年ほど前のイタリアまでさかのぼらなければなりません。
そして、七百年前のイタリア、三百八十年前のオランダはともに当時としては世界有数の商業地であったことは興味深いことです。
つまり商売をできるだけ円滑に、資金をできるだけ豊富にするためには、どのような組織を作ったら便利かを、必死になって考えたあげく生まれたのが合名会社、合資会社、株式会社だったわけです。
そして三百八十年前に生まれた株式会社が現在に至るまで経済社会の主軸となっているのです。
しかし日本の株式会社はそれほど古い歴史を持っていません。
合名会社的な存在はかなり古くからあったのですが、それが株式会社に発展する前に、鎖国という壁が立ちはだかったからです。
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